もう一つ私が出題した兼題が「雷」。考えている最中に遠雷が聞こえたので勢いでこれだ!と決めたがその後聞かれない。雷が発生しないのである。自分で自分の首を絞めるとはこのことだ。あとは雷経験を総動員するしかない。
 私にとって印象的な雷は二度。
 一度は新築、引っ越して間もない我が家の二階の大きな窓に繰り広げられた稲妻と雷鳴の大スペクタクルショー。左に玉姫殿の尖塔と函館本線の夜汽車。正面に函館山が包む函館港の円形。右にみ低い山並みを額縁に大きな空に息もつかせぬ時間だった。
 二度目は山頂直下にテントを張ったトムラウシでの一夜。夕食の頃から降り始めた雨にそれぞれが逃げ込むようにテントに入った。私は鼾で迷惑を掛けるのがイヤで一人用のテントだった。雨が一段落すると、遠くで鳴っていた雷がだんだん近くなり、それを運んでくるかのような強風が吹き始めた。稲光が一瞬寝袋の男を露わに照らし、風がテントを歪めて吹きつける。外に出て石で張り綱やペグを補強するが、キャンプ用のテントなのでこの風雨に頼りない。テントの中で寝ることも出来ず風や雷鳴を聞いているしかなかった。一本ペグが抜けた。覚悟を決めて寝袋を畳み、雨具を着ていつ外に放り出されても良いようにしてテントの中に蛹のように膝を抱えた。雷鳴は少しづつ近づいてきた。大音を轟かせ山に眠る者を許そうとしないかのようだ。稲妻と雷鳴に間隔が無くなりこのテントに落ちないのが不思議な位だった。風はますます強くなり風上のペグはすべて抜けてしまい、私はテントをまとっていた。テントは私の重みでかろうじて飛ばされないでいるだけだ。山の上にキャンプ用のテントを持ってきた浅はかさを呪いながら、ただただ、強風と雷が遠ざかるのを膝を抱いて待った。私はそのまま朝を迎えた。風が弱くなってやっとうつらうつらできて朝を迎えた。
 どちらの体験も句にできる力は及ばない。
    犬の耳立てて風聞く雷のあと   未曉