椴法華の義父の家は椴法華港の監視所のような位置にある。昼下がりの築港は静かである。今年初めての温かさの家で、漁師たちは昼寝の最中だろう。帆立を洗う機械も乾き、構内には波一つ無い。と思ったら市場の前あたりに舫っている漁船がたくさんの大漁旗で飾られているのが目に入った。正月でもないのに…、正月でも今時あれほど飾り立てたりはしない。義父に聞くと「大安丸が舟買ったんだ」という。どこかの漁船を購入した椴法華の漁師が、船名を今までの大安丸と書き直して今日お披露目したらしい。

 船大工を引退した義父が「ちゃんとやったわ」「昔はみんなやったもんだ」と呟く。お払いをし、餅蒔きをしたり酒を振る舞ったり大領端を靡かせて前浜を航行したり…。今は、やらないことも多くなったらしい。新造船を作ったり、どこかで使わなくなった漁船を斡旋したり、魚種の猟期に合わせて改造したり治したりして椴法華の漁船の面倒を見てきたという自負を持つ義父の淋しさも込められた呟きである。
 大漁旗が仕舞われる前に写真を撮ろうと外に出た。風はすっかり春である。まだ2月、このままとはいかないだろうが義父のようにう少し戻りながらも温かくなっていきそうだ。
  春の風披露目の漁船の大漁旗   未曉