富良野岳・霧中の山(2)

 頂上は少し明るくなった。それに連れて頂上の人たちに会話が増え、声も大きくなったような気がする。視界の円が、空が明るくなった分頂上空間が球体に膨らんだようだ。しかし、見えないことに変わりはない。Takさんは雨具を脱いだ。私も上着だけ脱いだ。
 記念撮影のシャッターを若いカップルの彼に頼み、下山した。登りの時よりも余裕をもって花々を見ることが出来る。右は霧で底なしに見える急斜面、身体が自然に左側に傾く。と突然霧に穴が空くように下界が見えたみんなが懐かしい藻のに立ったように声を上げる。帰るべき下界と繋がっていた安堵感かもしれない。Yamaさんが「原紙が原のあたりかもしれない」と云う。後で地形図を見れば今自分のいる辺りを確認できる。二度とも空中をさまようように歩かされたこの富良野岳と自分の関係を客観的に見ることができそうだ。一枚写真を撮る間にまた霧が蓋をした。全員が雨具を脱いだが、肩の分岐に近づくとまた暗くなり霧が霧でいられなくなったように雨粒になってきた。きっと雲がこの高さで厚くなっているのだろう。みんなそのまま歩く。肩の分岐で三峰山、上富良野岳方面への縦走の是非について相談するが、この天気では意味がないと往路下山に即決する。決まれば早かった。女性軍は登りで見て覚えた花を確認するようになぞって降りる。Yamaさんは撮りこぼしを拾うように最後尾を歩き、Kudさんは足をかばいながらも速い。ちょっとシャッターを押している間に感覚を空けられる。Katリーダーは視界の一歩先を行っているらしく見えない。案の定上部に雪渓が残っている沢まで降りると雨の心配は全くなくなった。濡れたわけでもない。一気の歩きで上ホロ分岐を過ぎ、安政火口の見えるトラバースの上端に出た。最後尾から撮しながら大きな岩に滑らないように足場を選んで降りた。ダブルストックがいい。 
 安政火口の沢見図に罹ると「靴を洗って休憩」とKatリーダーの声がかかる。細かな事に気づくリーダーだ。だれにも「登山は終わった」という気持ちが広がる。頂上で半分残した握り飯を食べた。美味い。霧のおかげか余った水で腹に落ちて行く。振り返るとなにやら富良野岳が見えそうだ。安政火口で考えると登り4時間、下り2時間40分の霧中登山だった。三回目来なければダメかなー。
 宿に帰って湯に入った。やさしい湯加減木の壁、木の床、木の浴槽…。三回目来よう!と思った。