雪の当別丸山

 雪の当別丸山は初めてである。いつもどおりトラピスト裏の駐車場に車を置いた。違和感を覚えた。春に備えるトラピスト修道院が妙に生々しい感じがするのである。普段は静かな祈りの中という佇まいを先入観としているせいもあるが、チェンソーが唸り、作業車が伐採した杉を運び、工場が忙しそうに稼働している様子はトラピストの商売っ気が見えたような気がしたのである。いつもはきれいに掃き清められている道路もその生々しさか泥で汚れていた。
 山に入る。昨日からの雪がうっすら積もっているがその下はけっこう締まっていてつぼ足で大丈夫なようだ。先週の七飯岳で登山モードが回復したのか今日は息が上がらない。三段階ある急勾配も山歩きの楽しさで登った。少しの休みですぐ回復し歩き出せた。雪が降ったかと思えば青空が顔を出す天候だったが、風はなく、汗ばむ感じが心地よい歩きだった。
 数年前の強風で倒れた大木が路を塞いでいる箇所がある。夏路はむき出しになった木の根を左に迂回している。倒れてすぐは笹を漕いでの迂回だったが最近はもう踏み固められた路になっている。そこを過ぎれば後一登りで頂上と言うところにあるので目標になる倒木だった。「もうじきのはずだったがな」と思いながらふと足元を見たら、本来の夏道の上、つまりその倒木の根の上を歩いていた。冬の山歩きの楽しさはこんな所にもある。頂上部分の笹原の上を歩きまさしく丸い山頂の上に立った。木の山頂標識は雪の下。由来は忘れたが1M程の石柱は僅かに顔を出していた。夏と違って遮るものはないが生憎の空で遠望は効かない。一方向函館山は雲というか霞の中に姿を現した。 
 吹きっさらしの頂上を避け、展望台まで20分ちょっとで降りて昼飯にした。展望台から見えるトラピストは昼と言うこともあって機械音もなく遠く小さく静かだった。ルルドを降りて、私が密かに「サウンドオブミュージックの原っぱ」と呼んでいる草原を横切った。昼になって緩んだのかつぼ足ではズボズボ埋まってしまい、ジュリーアンドリュースのように颯爽と…というわけには行かなかった。
 泥道を除けながら車まで帰った。隣に駐車中の車から工場で働く人が背伸びしながら降りてきて院内の工場へ午後の仕事に向かった。帰るときに見たトラピストの正面は祈りの園の顔をしていた。