こうきゅう

 朝刊に開店紹介で載っていたので展覧会鑑賞の足を中島町に延ばした。廉売内と書かれていたので探したが見つからない。川の方まで足を向けたら通い慣れた教育会館のすぐ横にあった。12時開店に時間はあったが、ここでの時間つぶしは困らない。廉売をゆっくり見て回ればいい。
 蕎麦打ちスペースが右に左に小さな釜場、その間に入り口がある。つまり通りに面して蕎麦作りを見せる店構えになっている。内装も椅子もテーブルもお金がかかっているわけではない。汗まみれの人たちがどっかと座っている方が似合いそうな感じである。「お金はかけられない。それよりも自分の蕎麦を食べてもらいたい」開店と解釈した。蕎麦が「たかされ」たる所以である。
 もり蕎麦しかない。挽きぐるみに近い黒っぽい蕎麦が笊に盛られてだされた。細めの麺を二口口に入れる。冷たさが勝ってしまって蕎麦の味や香りが今ひとつ伝わってこない。三口目でやっと蕎麦を感じた。辛汁は甘目。少し多めに浸して啜り込む。口当たりは私好みだが蕎麦の美味しさに物足りなさを感じる。山葵で食べたときの蕎麦独特の甘さももう一つという感じがした。冷水でよく締められていることもあって活きの良い蕎麦ではある。少し不満を感じながらも一気に食べてしまう。食べ進むと笊の底に幅7,8?の経木が敷いてあった。そのためそこだけ水切れが悪く、蕎麦の切れ端が水浸しになっていた。食べる方の仁義として切れ端一つ残さないことをモットーとしている私としてはがっかりさせられる。
 出しなに店主とかけそばについて2,3話を交わした。「私もすきなんですがー、かけにするとどうしても蕎麦がのびてしまって…。」とメニューに出さないわけを言っていた。私はかけそばを、もりで食う蕎麦とは別の蕎麦だと思っている。多少のびてた中で味わえる蕎麦の食感やだしのきいた醤油の香りととともに鼻をくすぐる蕎麦の香りと味…。もり蕎麦では味わえない「そば」がそこには在る。
 中島廉売という場所柄、おいしい「かけそば」を必要とするお客さんは多いと思うが、素人考えかもしれない。