雁皮沢林道のエゾアカガエル

 今年初めての「全国的に晴れー」の天気。サングラスがなければ眩しい残雪の照り返し。ブナの枝で編み目のように細分された空は青黒い程の青さである。
 写真を撮っているYaさんをおいて林道を20M程歩くとカウコウコウとかわいい声がする。渡の鳥かなと思って空を見るがその影はない。木を透かしても何も見えない。また聞こえる。コウコウ…。しっかり耳を澄ますと足元から聞こえる。雪と山側法面との間に雪解け水の水たまりがありそこに動く者が居る。蛙である。蛙が鳴いていた。今まで聞いたことのない蛙の声だ。鎌倉で聞いたカジカ蛙ともちがう声だし、いわゆる何かを転がすような声でもない。枯れ葉の上に乗っかって鳴いていた。まずシャッターを切り、Yaさんを待った。Yaさんも「蛙」と言って雪にカメラを向けている。戻ってみると雪の上に黒褐色で大きめの蛙がYaさんを見ている。Yaさんを観察しているといった方がいいくらい動かない。近づいても動かない。カメラを近づけても動かない。もしかしたら動けないのかもしれない。冬眠から醒めたばっかりか、雪に冷えてしまったか…。聞くとエゾアカガエルと言うのだそうだ。鳴いていた蛙は戻ったら二人の足音におびえたのか葉っぱの下に潜ってしまった。
 4時間後、帰りにそこを通ったらたくさんの卵が産み付けられていた。あの声は愛の声だったのだ。エゾアカガエルの種としての声を私は同定できないが、雌を求める雄の声と思えば山早春の調べとして美しい。