久留葉

takasare2008-10-29

 二週間ほど前探し損ねていたが、先日桔梗庵の夫婦がチラシを見せてくれて筋違いだったことに気がついた。チラシに書かれていた「大三坂」を目指したらすぐ見つけることができた。レイモンさんの店の裏手にあった。この辺りにある純日本式の家の外装をそのままにした店なので入り口に幟が無ければ気がつかない。看板と言うか表札みたいなものが、板塀に掛けられているがそれも地味である。折からの時雨に大三坂の石畳風の道が濡れて、風情がある。
 店内に入ると、右手の部屋は壁に向かってL字型のカウンター席が5つ。その奥が4人掛けテーブルが2つ。入り口正面は蕎麦打ち部屋があり、左手に厨房が見え、塀の内側の庭に面して座敷席があるようだ。内装は床も壁も変えているが、間取りは柱を生かして和風の蕎麦屋に仕立て上げている。開店直後に入ったが、二組の客がテーブルにいたのでカウンターに座った。久留葉せいろ750円を頼んだ。
 品書きの冒頭には、蕎麦、出し、器に対するこだわりが書かれていた。読んでいるうちに蕎麦がきた。そろいの白い陶器の銚子に辛汁、ほんの少しのさらし葱とこれも僅かなわさびの載った小皿がふたがわりになった蕎麦猪口が盆の上に並んでいる。
 美味しいそばである。このごろ三口はそのままで蕎麦を食べる。新蕎麦の所為もあるかもしれないが、打ちたての蕎麦は辛汁をつけずに十分美味しい。そのほうが蕎麦の味や香りが楽しめる。香り、舌触り、熱が通った瞬間に冷水で締められたかのようなそば粉の感触を残したような蕎麦の味。硬いわけではないが芯を感じることができる。辛汁は舌に乗せると最後に甘味を感じる程度に甘い。この蕎麦ならもっと辛くてもいいような気がした。山葵は少なかったが不満ではない。ただ、蕎麦湯を楽しもうとした時にはもうなくなっていた。
 いつもどおり掛け蕎麦も頼んだ。だしが効いていてしょっぱくないのにしっかりしたつゆで掛け蕎麦の香り、味を十分楽しめ美味しかった。
 柱時計が12時を告げ、表に出た。時雨の元町に教会の昼の鐘が鳴り響いた。それなりに余韻も楽しめる蕎麦屋である。