旧横津スキー場から烏帽子岳・トラバース

 いわゆる雪が腐った状態で重い。雪という結晶が集まって体積は持っているが結びつきが無いのか足を受け止めてくれない。足が沈むのではなく、あらぬ方向に滑るから歩いているとストレスが溜まる。早々にスノーシューを履いた。旧横津スキー場の正面のゲレンデを直登する。フラットだし見通しもいいのでつい、ペースが速くなりがちだがスキーゲレンデだから斜度がある。何回か経験しているのでゆっくりゆっくり登る。それでもきつい。二度ほど休み、水も飲んだ。暖かい。そろそろ持ってくる水の量を増やさなければならい。
 今日は、リフト降り場まで行かずにその少し手前を右に曲がった。今までで最も低い地点から烏帽子岳へのトラバースコースになる。
 横津から烏帽子へ繋がる高原大地の縁なので斜度がまだ残っている。スノーシューはエッジが無いので傾斜に直角なコースは歩きにくい。私は、傾斜を直登しては緩やかになった所でトラバースすると言うことを繰り返しながら歩いた。こういうことが自由にできるのが雪上どかどか歩きの楽しさだ。ダケカンバが美しい。青空に白い樹肌の枝先を艶かしく泳がせている。YamaさんKuさんが思い思いにその樹間をシールを滑らせて進んでいく。足元から広がる雪とダケカンバと三人だけである。まったく静かである。
 広く緩やかな高原部に出た。烏帽子の頂上に収束されていく裾である。烏帽子の後ろに後見人のように袴腰が構えている。そこに向かう波のように笹が幾重にも線状に横たわっている。それを目安に進む。突然Kuさんが越え尾を挙げる。トガリネズミが右手から走ってきてKuさんのスキーの間に走りこんできた。Kuさんが捕まえようと身をかがめた拍子に立ち上がった内側のエッジからスキーの下にもぐりこんでしまった。踏み潰すまいと躊躇している隙にKuさんの股間を冷やかしに来た様にすり抜けていった。私のカメラは捕らえようがなかった。一本の木の根元にもぐりこんだので覗いてみたが、覗いたとたんさらに奥へ姿を消した。静寂とはいえ、この雪の下には数え切れない命が鼓動していることを知らされた。
 一時間半の歩きで烏帽子の頂上に着いた。烏帽子の頂上は雪はきえていたがたっぷり水を吸い込んだスポンジのようだった。その上で昼にした。ポカポカポカポカ、風もない山の上で極上の昼飯である。
 二人が袴腰との鞍部への斜面でスキーを楽しんでいる間、私はポカポカの延長を楽しんだ。スキーを履いて登ってきた人がその斜面を颯爽と降りて行き、袴腰への斜面を登り始めた。さらにスキーを担いで登り出した。いつ滑るかなと待っていたが座って昼飯にしたようだ。そのうち、二人が名残惜しそうに滑降を止めた。
 帰りはもっと雪が重かったし、沈みも深くなった。しかし十分どかどかトラバースできる雪だった。
 スキー場から横津頂上までの除雪が始まり、その重機の音と、跳ね飛ばす雪が1000Mの山の上にも春を告げていた。