普段蒜沢で自然保護のボランティア活動をしているNPOが催してくれた木古内亀川の自然観察会に参加させてもらった。メインテーマは、海から川を遡上した「ホッチャレ」が山に海の栄養分を還元する実態の観察である。初めての参加だが、肩の凝らない雰囲気で居心地よく亀川に沿って歩けた。誰かがとうとうとまくし立てる説明過剰でもなく、だからといってただ歩くだけでもなく参加者が質問すれば専門家が丁寧に答えてくれていた。私は半分聞きながら半分吟行のつもりで歩いていた。
 数が多いのか少ないのか私にはわからないが、河口付近ですぐホッチャレが見られた。一様に眼がくりぬかれたように食われていた。説明によるとカラスやかもめでは鮭の皮は堅くて嘴で食い破られないのだそうだ。そこでやわらかい眼を食べるという。魚体はあまり傷んでいないので黒く穿たれたうつろな眼窩はまるでその穴の底に直接何かを焼き付けるように「眼」であった。上流に向かうと岸には狐に食い荒らされた残骸が雪と一緒に解けていくように点々と在った。川岸から10mくらい離れた笹薮の中にも大きなホッチャレが泥まみれになっていた。狐か何かが運ぼうとしてあまりの重さに投げ出してしまったようだ。こうして直接土に還ったり、獣や鳥の糞として大地に溶け込んでいくのだろう。
 ホッチャレが腐り、食べられた痕跡のすぐそばの流れで、産卵を終えたのだろうか一匹の鮭が、鱗もはげ白い地肌を冷たい水に翻しながら終焉の時を迎えようとしている。残ったエネルギーのすべてを、自分の頭を川上に向けることに費やしながら…。
 必ずしも「ホッチャレ」とい言葉の響きはこの鮭の死にふさわしくない。