烏帽子・袴腰・横津 招かれざるもの(1)

 横津の山頂台地に点在する航空局の諸施設をつなぐ舗装道路が、横津山頂と袴腰方向とに分かれる分岐に湿原がある。鳥居が二基(と呼んでいいのか)あって、小さな社があって小さな沼がある。きっと沼の存在がここを神域とさせたのだろう。袴まで行ってきてそこに寄った。沼が見えるところまできたらKuさんが「なんだこれは?」「誰だこんなことをしたのは」というような意味の言葉を発した。盗掘跡でも見つけたのかと見回したが特に変わったところは無い。ワタスゲカンゾウがいい感じで風に揺れている。池には蓮の花が咲き青いイトトンボがつがいになって水面を打っている。こまででKuさんの言った意味がわかった人はえらい。私は全然わからなかった。
 蓮である。蓮は本来ここには自生しないものなのにきれいに花を咲かせている。誰かが社前の神聖な沼にふさわしかろうと入れたに違いない。
 蓮の葉は、丸く水面にしか葉を広げられないので結局密生してしまいお互いの葉を重なり合わせるように水面を覆って終うということだ。水中の動植物にはお日様が当たらなくなる。日照権の問題である。そして、直結的に生存権の問題である。生態系はまったく変わってしまい本来の姿は取り返しがつかなくなる。
 同様の話を、それもスケールの大きい話を知っている。
 ニュージーランドの最高峰Mt,クックを間近かで見ようとクィーンズタウンからバスで移動した。半日くらいの行程だったと思うが、窓外は南島特有の氷河に表土が削り取られ、緑の少ない岩山が続いていた。前日まで歩いていたトレッキングコースはむせ返るような緑の中だったのに比べると、単調だし人家も少ない。すぐ飽きてしまった。その中で唯一と言っていい色彩として眼に映るのははルピナスだった。ニュージーランドの代表は羊歯の葉で表されるが、「ルピナスにするべきだ」と思わせるほどいたるところに咲いていた。
 ガイドが説明してくれた。実は、このルピナスは、ニュージーランドがイギリスの植民地となった19世紀後半本国から来た英国人女性が、この荒涼とした景色を見て淋しがり翌年再度訪れたとき、このあたり一帯に本国からルピナスの種を持ってきてばら撒いたことによるという。その後ルピナス外来種の強みかどんどん広がりいまやまるでニュージーランドを代表するかのような花として咲いているのだという。詳しい話は忘れたが、「きっと貴族かなにかのエゴの塊のようなおばさんだろう」と思っている。これは貴族とかエゴおばさんが嫌いな私の勝手な推測だが…。とにかくこうしてニュージーランドに本来自生していなかったルピナスが特異な生態系を誇るニュージーランドの汚点になっている。その反省がニュージーランドでは徹底している。そいえばこの旅行のときも、トレッキングシューズに付いている日本の土はきれいに落とさなければ入国出来なかった。(閑中有忙 明日に続く)