樽前山・ガス荒れ狂う山頂

takasare2007-07-17

 6時出発の七飯は曇っていたが、森辺りから晴れ間も見え始めた。半ば雨を予想していたので、青空が見えただけで今回の山行全部が開けたように明るい気分になる。しかし、美笛峠はガスかぶり、路面は黒く湿っていた。登山口にはすでに十台以上もの車が停まっている。樽前山は海方向からのガスが次から次へと押しあがるように頂上を覆い隠し、押されたガスは北側の斜面を降りるが、支笏湖に届かないうちに消えてしまう。登山口は晴れ、山頂はガスで見えない。展望は期待できないが、花を楽しみながら頂上まで行こうということで登り始めた。
登山口から階段が続く。階段は苦手である。登る足が偏らないように膝を換えながら登る。マルバシモツケが赤茶けた終わりの花を交えて咲いていた。進入禁止のロープ脇では、樽前草がまるで移植されたかのように並んで咲いている。先頭の私はいつもながらのように見逃したが、後ろではYamaさんとKuさんがモウセンゴケを見つけて写真に収めている。樽前草は今が見ごろのようだが、高さを増すにしたがって色も株の大きさも見事になっていく。低木の間を縫っていた登山路は大きく流れ落ちる斜面をトラバースし始めた。右の登り斜面も左の下り斜面も火山特有の礫地である。風が強くなり、ガスも濃くなってきた。キャップをきつくして被り直し、眼鏡の水滴を拭きながらの登りになった。いつの間にか花も無くなっている。
 分岐に差し掛かった。トラバース路は少しくだり気味にガスの中へと続き、右方向の道は斜面を直登していてこれも先は霧の中に消えている。Yamaさんに判断を仰ぐ。右。20mも登ると尾根に出た。頭の中の地図に重ねると外輪山の稜線に出たようだ。すごい風だ。火口の方から吹き上がってきた風が、なだらかな尾根をなでるように吹き抜ける。遮るものもない。吹けるだけのスピードで吹き抜けていく。頂上まで50m。1m高くなるごとに風速も強くなるようだ。頭の中の地図は頂上が近いことを知っているので歩みを止める気にはならないが、それが無ければ進退をみんなで確認するところだ。雨ではない。ガスだが強風で吹き付けられるため小さな水の粒が一枚の水の板となって襲い掛かってくる。
 何回目か顔を上げたところが頂上だった。暗い。目に動いて写るものは何も無い。しかし、体にぶつかるものはある。うなる音もある。キャップのつばから水が滴ってきた。眼鏡をポケットにしまい、大きな頂上標識の前に立った。暗い。闇の暗さではなく水と風が光をさえぎる暗さなのだろう。暗灰色の中、岩も石もうずくまりひれ伏すばかりである。逆らって立っている我々も一瞬でも力を抜くと体ごと風に吹き飛ばされるに違いない。
 ドーム一周案も不風死岳との分岐まで行って不風死の登山口へおりるコース案も考える余地無く登ってきたコースを戻ることにした。頂上には立ったが惨めに退散させられた気分である。
 ガスが消える高さまで降りてきたら頂上の様子が嘘のような空である。登山口のすぐ上にある展望所のベンチに座り昼食にした。カラスが物欲しそうに様子を伺っている。樹間に見える頂上も依然ガスってはいるがあの頂上を予想だにさせない白い綿のようなものが吹き上がっては消えているだけだ。
 物足りなさから不風死の登山路を辿り平坦部の花散歩に出かけた。往復1時間。帰り際、樽前の頂上が束の間晴れて我々が立っているところまでのコースの全貌が明らかになった。残念な気持ちが募った。眼前に敷き詰められたように広がるイソツツジの時期に再訪するのもいいなと思った。