「吉野家」〓遠野市

 思いがけず遠野市の再訪が成った。義弟のお父さんの葬儀に出ることになったからである。葬儀への旅とは言え、やはり旅、特に民話の故郷「遠野」への旅は旅情をそそられる。また、民話など伝統を強く残す地方のお葬式の様子を見られることも楽しみにしていた。不謹慎極まりない。その上さらに不謹慎な期待もしていた。「ひつこ蕎麦」である。
 結婚したての義弟の故郷を訪ねようと27,8年前に遠野市を訪れたことがある。そのとき遠野吉野家のひつこ蕎麦を知り、駅前にあった吉野屋で同行者から離れ一人で食べた経験があった。美味かったことは覚えていたが、割り子蕎麦風の蕎麦だったこと以外忘れてしまった。
 遠野の駅に降りたとき、「吉野家」を探したが見つからなかった。気になったが葬儀に来ていていきなり「吉野家はどうしました?」「ひつこ蕎麦はたべられますか?」とは聞けない。やっと「お念仏」という大数珠回しが終わって、通夜の酒席になったとき地元の方に聞いてみた。「あー吉野家だばバイパスさ移ったんでねがったっけ」「うんだうんだ」と道南の我々にも通じる浜言葉の情報を得ることができた。
誰か他の人と旅している時は、予定を変えて蕎麦食いを入れてもらうことはほとんどしない。ひとりになれる時間が生まれたチャンスで蕎麦屋に行くことにしている。今回は遠野を発つのが昼頃になるので昼食をおごることにして「吉野屋」によって貰うことにした。葬儀も終わっているので遠慮も要らない。