僕の前に道は無い・鳴川岳

takasare2007-01-31

 暖冬少雪とは言え山には雪がある。山スキーを楽しむ人にはそれでも少ないらしいが、我等スノーシュー族には(特に私くらいの体力には)すこぶるちょうどよい。昨日は、横津道路の冬季Gateに車を置いて、保養林遊歩道を登山口に歩き始めた。遊歩道は横津スキー場につながる大きな尾根の下部を小さくなめるように作られている。その遊歩道の最上部から頂上を目掛けその尾根の一番高いところを無理やり歩いていくのである。とにかく一番高いところを歩いていく。避けるのは樹木だけである。夏季は深い藪に覆われて歩けないが、今は一面の雪とスノーシューが重い体を支えてくれる。
 やがて、植林地帯を抜けると広い白銀の斜面に飛び出た。ゴルフ場が広がっている。なだらかな曲面が雪で覆われ、女性的な優美さえ感じる。冬陽とは思えない強い日差しで眩しさが浮き上がってくる。一息休んでから無垢の雪面に歩を進める。そして夏なら叱られるだろうコースの真ん中を歩いて行く。
 僕の前に道は無い。僕の後ろに道が出来る…高村光太郎の詩を思い出した。この詩は高村光太郎の精神世界だからこそ美しく感動的なのだろうが、この広い景色の中に具現化された私たちの道もなかなか感動的なのである。私たちの後ろに連なっている足跡を振り返る。ゴルフ場の下縁に消えていくように続いている。その向こうに函館の町そして青灰色の函館山そして雲を映して広がる海…。私たちはあそこから歩いてきたのか…感動に酔っぱらってしまった。
 ゴルフ場のロッジ前で昼を食べ、そのまままた真っ直ぐ鳴川岳目指して斜面を登り始めた。もうはずみがついてしまった。「♪歩いたところが僕の道」などと変にリズムをつけて口ずさみながら登ってしまっている。高村光太郎の「道」に到達点は書かれていないが私たちの「道」は鳴川岳で終わった。
 鳴川岳は車で行くとゴルフ場の上、スキー場が右手に見えてくる辺りの左斜面にある。丘のように見えてしまう山だけれど、ちゃんと地図上に山名も載っている山である。そして頂上に立つと360度の視界が有り、思った以上に頂上感が味わえる。西に二股岳、当別丸山、北側は鳴川の沢を挟んで七飯岳、その向こうに駒ケ岳、東は蝦夷松山、雁皮、三森山、そして袴腰が見える。その手前に横津の肩にほとんど隠されているが、雪に輝いている烏帽子が望めた。暖かく無風の山頂でしばらく時をすごしてから下り始めた。最短を登ってきたので一気に降りてしまった。
 僕の前に道は無い。僕の後ろに道は出来る。これがスノーシューの楽しさだ。(高村さん、素晴しい詩をキャッチコピーのようにしてしまってすみません)