美原「丸屋」

 病院に行く時美原の交差点を曲がったら、新装開店の蕎麦屋が目に入った。病院の帰り、長崎屋に車を置き、時間をつぶしてから暖簾をくぐった。11時40分、客は会社員らしい3人連れが仕切られたワンボックスを占めている。今入店したばかりらしくオーダーの最中である。黒で統一された椅子席だけで、半間幅に写真製版して拡大された色紙の俳句の前に座った。画家と言うより職人が描いたような日本画の複製が二枚、ボックス席の仕切り壁にかかっている。どちらも無いほうがいいように思った。今、新しい店はだいたい「手打ち蕎麦」だが、この店どこにもは「手打ち」の文字は無い。せいろが400円になっている。外は寒かったし、あったかい蕎麦にしようか冷たい蕎麦で味を確かめようか迷ったが、結局中を取って鴨せいろにした。
 これを「こしが強い」とでも言わせたいのだろうか堅めの大げさに言えばぽきぽき感さえある蕎麦で、味や香りは素で食べても鴨汁につけて食べても際立つほどのものではない。鴨汁はぬるく、蕎麦の冷たさが勝ってしまい終わり頃には、肝心の鴨肉までが冷たくなってしまっていた。水切りが悪く、最後の一箸は私が最も嫌な、水に浮いている蕎麦を食う羽目になった。蕎麦湯は濃く、口開けの客だから、釜の蕎麦湯ではなく蕎麦湯用に別製した蕎麦湯だろう。これは意外だったし熱かったので、冷たくなった鴨汁も美味しくいただけた。
 美原の商店街の一等地に駐車場を持っての開業は大変だろう。特にここには丸南の美原店、松よし、長崎屋の笠屋とどれも機械打ちだが昔からの店がある。帰りがけに熨斗袋に入ったタオルをもらった。帰って開けて見たら店名も入ってなかった。