横津山麓

 今シーズン最寒の寒波の朝、道南もうっすらと雪を被っている。しばらく雨が続いていたのでいかにも「降り込められてたぞ」と言わんばかりの顔でいつものメンバーが集まった。大川射撃場に登って行く、いわゆるバカ常の尾根の根元である。Yaさんから連絡された時はピンと来なかったが、昨年の私の賀状のスケッチ場所だ。その時は白く輝いていた袴腰や烏帽子の雪は、今年はそれほどでもない。寒さに身まかないを整えて久しぶりの登山靴の足を踏み出した。
 簡易舗装の林道を第一送電線の鉄塔まで登り、そこから送電泉下の刈り分け辿って左に曲がった。短くなった草の上に落ち葉が敷き詰められその緑色と枯れ葉色を染め出すように雪が縁取りしている。5人の男が踏み潰すように歩いている。凍っている雪と枯れ葉が音をたてて草の中に押し込められていく。
Yaさんがマタタビを見つけた。青空に伸びた細い枝に薄いオレンジ色のしなびた実が下がっていた。食べられると言うので手を伸ばした。届かないので爪先立ちになり支えようとつかんだ傍らの木がタラの木だった。軍手を通して、鈍いが心臓に刺さったような痛さに襲われた。食い物となると周りが眼に入らなくなる習性は我ながら情けなくなる。青空からもぎ取るようにして採った実を口に入れた。甘さは無い。少しの酸味と、そのあたりの空気や光を実に凝縮したかのようなひなたくさい味がした。コクアに似た食感は心地いい。猫は何に酔うのだろう。
 バカ常の尾根から急斜面を下って大川に降りる。横津スキー場への舗装路を横切り大川の流れに出た。雨続きの増水のせいか橋が流されて渡渉になった。SaさんとYaさんは長靴、他三人はトレッキングシューズなので渡渉箇所を探したが見つからず、Saさんの助けを借り、足を濡らしてやっと渡った。そこからは大川と武佐川に挟まれた尾根に向かっての登りになる。トレッカーのための道ではなく、送電線の保守点検のための道だからその真下に、最短でしかも直線でつけられている。つまり斜面を直登することになる。ふもとに近いから尾根は低いが急斜面の直登は堪える。登り切って送電線の鉄塔の下で一息ついたが、すぐそばを新道が走り音も聞こえる。つらい割には頂上で感じる達成感には及ぶべくも無い。そこから横津岳へ真っ直ぐ伸びる舗装路に出た。舗装はすぐ切れ、車が入れない悪路になる。傾斜はそれほどでもないが直線で見通せる分遠く感じてしまう。聞けば、この道のすぐ右横辺りに昔の横津岳大中山コースがあるという。私の登山初体験の時通っている道だ。正直に言えば、当時今のスキー場のあたりにあった『横岳荘」での「地理研飲み会」と言う別名に誘われての登山だったが…。やがて直線路はモトクロスのコース、スキー場への道が大きくヘアピンする所に付いた。モトクロスの駐車場に作られたバーべキュー炉を囲んで昼食にした。