おばあちゃんのぽたぽた焼き

 教員時代、学年を組む先生たちで休み時間お茶のときにおやつの持ち寄りをしたことが何度かある。隣に女の先生がいて、机の上にキャラクターが描かれた可愛げな缶が置かれ、何かのついでにそこから小さなチョコレートかなにかをつまみだす。そして「先生もどうぞ」などとすすめてくれる。その内に「先生よかったら好きなときに勝手に食べて」と言われ、しばらくたつと本当に勝手にふたを開けて食べている。そして尚しばらくたつと、いつもご馳走になっているのも悪いから、私の机の上にも、お茶の缶かなにかを置き「俺も用意したから好きなときに勝手にやってくれ」と言うことになる。
 そのときに何を用意するかである。女の先生は甘いものが多い。私はあまいものがあまり好きではないし、同じようなものを用意してもつまらない。
 私は、煎餅を用意した。南部煎餅も良いが小さなチョコレートに比べ、少しスマートさにかける。スーパーで物色していたそんな時、「おばあちゃんのぽたぽた焼き」が目に止まった。おばあちゃん、炉辺、手作り…、そんなイメージのイラストが描かれていて、あの可愛いキャラクターに対抗できそうに思えた。なにより、味が砂糖醤油である。
 女の先生たちは、あまり食べてくれなかった。後でわかった。音である。さも私は食べていますという煎餅の音は、職場でちょっとお茶したときのおやつとしては品が無い。いっせいに目を向けられたりしたら女性としては困るだろう。彼女たちにしてみれば、南部煎餅と同じようにスマートさに欠けるおやつだったのである。結局、私一人で食べていた。
 けれど、ぽたぽた焼きはそれ以来わたしの好物になった。今は、朝一通りのことを終えてパソコンに向かってブログを書き、坂口さんのHPを見た後の十時ころ、お茶を入れて、ぽたぽた焼きを一袋取り出して食べる。窓の外の雀などを見ながら音を立てている。