「藪そば」東京上野

 この次、迷わず来れるように、店の前の道路をまっすぐ出てきたら、その道は「御徒町中央通」だった。そして、そこは上野駅に渡る大きな横断歩道の前だった。この次は迷わない。昨年ネパールの帰り、みんなを「藪そば」に案内しようとしてできず、一人になって駆けずり回った挙句にやっと見つけた。その一年後というのにまた見つけられず、昨年手がかりにした案内板も見つけられず、痛い足に時々しゃがみながらアメ横の雑踏の中を歩き回った。ここを歩く人はほとんどが旅行者だから、聞いても判らない。昨年店の人に聞いたら、目印になるものも見つけられないよそ者に説明は難しそうだった。しかしあっけなかった。うろうろして立ち止まったところに、笹竹を配した藪そばの入り口があった。座れると思ったがよく見ると小さな行列ができている。少し待たされて二階へ、神田藪そばにあったような二人掛けの小さな卓が空いていたので、座った。奥のガラスで囲まれた打ち場で職人がそばを打っている。そのガラスのすぐ脇に座っている若い外国人のカップルがガラスに顔をつけるように見ている。旅行用のバッグを持っている人も多い。「故郷の訛りなつかし…」の感じも少し漂っているような雰囲気がある。
 そばを打っている姿を見ながら食うもり蕎麦は、目から味や香りを感じてしまうのかもしれないが美味しくいただいた。昨年来たときの鴨せいろもとても美味しかった。
 今回、期せずして、「並木やぶ」「神田やぶ」「池之端藪」「上野藪」を食べた。つながりの実際はわからないが、土台となるものは共通してしっかりしている感じがした。蕎麦の味は店主が作り、店の雰囲気は、客が作っているのだろう。それぞれその土地柄が感じられた。
 この次は迷わない。上野駅を出て横断歩道を渡り、御徒町中央通をまっすぐ歩けばいい。