「吉里吉里」(2)天童

takasare2005-09-30

 私がこの旅で得たものとして「蕎麦前」がある。蕎麦の前に銚子を一本!である。その酒を楽しむための「あて」も、結構たかされなのだ。もちろん車で蕎麦屋さんをめぐっているのだから酒は飲めない。しかし酒が飲めたら最高!という蕎麦屋の「逸品」がここ〈吉利吉利〉にあった。
 開店少し前に着いた。アプローチを塞ぐように立っている松に注意しながら車を停め、佇まいをカメラにおさめながら開店を待った。
 店の構えは〈あらき〉と同じ感じだった。ただ、〈あらき〉ほど田舎家風へのコンセプトは強くは無い。
店前の打ち水を終えた若奥さんと言う感じの女性に「どうぞ、お待たせしました」と声を掛けられて入店した。「北海道からですか?。私も北海道の出身なんですよ。」「函館から来ました。車に寝泊まりして蕎麦の食べ歩きをしています。北海道はどこですか?」「札幌です。私達もよく車で旅行するんですよ。御苦労さまでした。」「ざる蕎麦をください。へぇー札幌ですか。」「ざるそばですね。はい主人がここの出身なもので。他に何か御注文は…。豆腐の味噌漬などありますが。」「それ、美味しいんだそうですね。ください。」「山菜の天ぷらが今一番美味しい時期ですけれどいかがですか?多いようでしたら、見つくろって少なくして差し上げますか?」蕎麦と、ファーストフードばかりだったせいもあるが、若奥さんの気配りのある商売上手に期せずして酒なしの蕎麦前を楽しむことになった。
 美味しいチーズより美味しい。チーズの美味しさを知っているわけでは無いし食べているのが豆腐なのだから、この表現はおかしいかもしれないが、食べた第一印象はチーズとの比較だった。口に広がる発酵臭、
濃厚な舌触り、そしてしよっぱさ。きゅうりが添えられていてそれらを加減して食べられる。本当に酒が欲しくなった。「すすめてくれてありがとう」と言いたくなる程の食体験だった。