夏座敷

 この頃なんの脈絡もなく唐突に昔のことを思い出す。昨日、畳の部屋を茶殻で掃いていたことを思い出した。

 我が家が家を建て、就職するまで10余年過ごした家は十畳ほどの板の間(フローリングではない)と四畳半、六畳、三畳の小部屋二つがあった。三畳の一つには二段ベットがあって兄二人が占拠した。もう一つの三畳は祖母が使っていた。私は長兄が家を離れるまで四畳半に布団を敷いて寝ていた。六畳に寝る両親の布団を敷き、上げるのも私の仕事だった。朝の仕事はもう一つある。四畳半と六畳とそれに繋がる板の間の掃き掃除も私の仕事だった。

 掃除機がないその頃の掃き掃除は、我が家では前の日に使った茶殻を手の中で絞り、畳の上にまき散らし、それにゴミ埃を吸着させて掃き取っていた。私はゴミ、埃を掃くと言うより茶殻を掃いていた。だから父からは「四角い部屋を丸く掃くな」と言われていた。そういえば新築から半年くらいの間板の間は家族総出でおからを包んだ布で拭いていた。艶が出ていい風合いになるのだと父が言っていた。磨く作業はすぐ効果が見えないしつらかったので隣が豆腐屋でおからが簡単に手に入るのが恨めしかった。そういえばその後の板の間をじっくり見たことはなかった。どんな色つやだったろう。

 六畳だけは襖で仕切られていて家族内では「座敷」と呼んでいた。床の間がありふだんは客用の座卓が飾りのようにあるだけだったから入るとすこーしほんの少し改まった。

   夏座敷茶殻清めし畳の目   未曉

 そんなことを唐突に思い出す。前兆かなどと思ったりする。