海鞘

海鞘食めば海この頃のなお苦し  未曉

 近所のSさんから「食べるかい?」「食べる食べる」と立派な海鞘をいただいた。

 新卒教師として赴任したのは島牧村だった。飲み会中心の青年会のような集まりに入れてもらい毎晩のように飲み喋っていた。下宿先の古い持ち家が空き家になりそこを借りて住むようになったらたちまちその毎晩の会場が我が家になった。

 普段はいわゆるイカクンとかカキピーだったがたまに「今日は浅蜊が手に入ったから」とか「今日は蛸親父から蛸の足もらってきた」などとワイルドなパーティーになることもあった。ある日、道派遣の漁業改良普及員(たしか…)のY氏が「蛸親父からもらってきた」と言ってトロ箱一つの海鞘を持ってきた。呉れる方も呉れる方だが貰う方も貰う方だ。そして喰う方も喰う方だ。酒にまかせて7~8人で喰ってしまった。捌いた男はもう海鞘の顔も見たくねぇと言って喰わなかった。終い近くは口中が磯の苦い香りで一杯になり柿の種か何かで口直しをしながら飲んでいた。もう一晩続いたら私も海鞘は嫌いになっていたかもしれない。

 海鞘パーティーはあの一晩だけだったから今回も美味しく食べることができた