最後の受験


 私は生まれ変わる事が出来るなら、来世は大工さんか建具職人に生まれ変わりたいと思っている。時代としては縄文時代が希望なので、大工さんがその時代専門職人としてポジションされているかどうか心配だけれど、願いとしてはそう思っている。
 十二年前退職した年にもてあましそうな時間つぶしにウッドデッキ作りをした。小さな庭を削れば場所もあったし、家を建てたときに余ったツーバイフォー材を物置にとっておいたこともあって、取りかかりやすい状況にあった。なにより始めると大工仕事がけっこう楽しいことに気づかされて完成させてしまった。それから十年余、本当に重宝にこのウッドデッキは使わせて貰った。夕方ここでの晩酌タイムはまさに至福の一時だった。
 しかし、十年の風雪は素人大工のウッドデッキを傷め、危険さえ感じさせる状況になって昨秋解体撤去した。例年冬期間は使えなかったからそんなに感じなかったが、春になるとあらためてウッドデッキがないことの寂しさ、味気なさを強く感じられもう一度作ろうと思ってしまったのである。
 いざ始めてみると経験があるので作業の見通しはたつが体力気力が十年前と全く違ってついてこない。面積は半分にしたが腰痛は、塗る、持つ、切る度に感じたし、同じ姿勢を続ければ途中で何度も腰を伸ばさなければならない始末だった。
 それが今日やっと完成した。早速晩酌を飲りながら来世生まれ変わるためのテストを受けたような気持ちになった。何年持つかわからないがこれが最後の受験になるだろう。