春日

 東京から夕方の新幹線で帰ることにして、半日いわゆる谷根千を歩いた。鶯谷駅を降りて根岸の子規庵、谷中銀座、伊勢辰、ヒマラヤ杉、寛永寺、上野公園と巡る道を老若男女の散策者と行き交い、追い越し追い越されながら歩いた。私の目当ては子規庵と目星をつけた手打ち蕎麦、伊勢辰の和紙である。子規庵では6畳と8畳の二間続きに病床の子規を要に若き俳人たちが集う様が想像できた。谷中銀座商店街から十歩路地を入った蕎麦屋は私一人が客でもったいないくらい美味しい蕎麦だったし、伊勢辰では「眠らせずに使うぞ」という決意をしたうえで、やたら縞の風呂敷を買ってしまった。まだ花見には早い上野公園で休んでいるとケーナの「コンドルは飛んでいく」が聞こえてきた。音に惹かれていくとインディオの民族衣装をまとった褐色の肌の人が演奏していた。3曲も聴いてしまった。時計を見るとちょうど良い時間だ。小さな度を終えることにして歩調を帰函モードに切り替え上野駅に向かった。
       子規庵
   子規庵や春日くねくね路地を来る  未曉