湯豆腐

 私が子どもの頃毎晩酒を欠かさない父は多くの場合別献立だった。いわゆる酒の肴は父だけと言うことが多くそれこそ子どもの私は垂涎の目で見ていた。特に年に一回時期になると母が作るイクラは最初の一回は食べさせてくれるが、それ以降は毎晩父一人の肴だったから大人はいいなぁ−と思ったし、早く酒を飲めるようになりたいとも思った。
 しかしめぼしい肴が無いときは、隣が豆腐屋だったこともあり夏は冷や奴、冬は湯豆腐になることが多かった。父はそれも喜んでいたし私も豆腐は嫌いで無かったが、わたしたち子どもたちがカレーライスの時は父に勝ったような気がしたものだ。昭和の夕食だった。
     湯豆腐で手酌の父をカレーの子   未曉