月食。近所の屋根の上に出た時は地上の昼の余韻に赤く朧の中だったが、月食が始まる頃は少しすっきりしていた。皆既月食になる少し前、寒いのを我慢してウッドデッキに出ると、春の夜空に黒真珠が置き忘れられたように見えた。
次は三年後だという。妻が「見られるかな」と呟いた。自分のこととして聞いた。
     月蝕   
   地の朧抜けたる月を地が蝕し   未曉