どかどか歩き                             
 世界で一番高い山には三つの名前がある。サガルマータ・チョモランマ・エヴェレストの三つである。
 サガルマータは南からこの山を見るネパール語で「世界で最も高いところ」、チョモランマは北からこの山に信仰を寄せるチベット語で「大地の母神」を意味する。しかし、エヴェレストは植民地としてインド半島を測量したイギリスの測量隊長の名前である。ニュージーランドの名峰マウントクックも人名であることはご存じの通りである。名前が無かったわけではない。現地の言葉でアオラキ(雲を突き抜けるもの)という素晴らしい名前で呼ばれていた。西欧人の植民思想が文化や宗教の押しつけも含めて「征服」以外の何ものでもなかったことの一端でも在ろう。
 僅かだが外国でのトレッキング経験がある。日本人は世界の何処のコースにもいるが、西欧人で括れば彼らもまた何処のコースにもいる。
 彼らはそのコースをどかどか歩く。日本人等アジア系の人たちは折角来たんだから、ゆっくりじっくり何でも見てやろうというペースなのだが彼らはそんな私達をどかどか追い抜いて行く。短パンに金色の臑毛を光らせて…まるで自然の征服者でもあるかのように山頂を極め、長いトレッキングコースの踏破を誇るのである。吾々がロッジに着く頃にはシャワーも浴び、金色の臑毛を風に乾かしている。私達は達成感、彼らを満たしているのは征服感なのだろう。
 若い頃読んだ本に「肉食の思想」と言うのがあった。私はトレッキングでそれを実感した。