雲海

 函館山を歩いた。一輪草、蝦夷延胡索、延齢草、片栗等が見られた。花には少し早いようだったが、陽気は暖かく歩けば少し汗ばむ絶好の山歩き日和となった。
 宮ノ森から七曲がりコースを登った。コースの肩に当たる展望場所では函館山で始めてのパノラマに恵まれた。下北半島を視界から遮っていた霧が降りるように下がると、そのまま薄い雲海となって海峡を覆ってしまった。わずか二百メートルくらいの高さからの俯瞰だから雲と言うより海面にたつ湯気のようなものだろうが、下が隠れてしまうと高山で見る雲海と違わない。雲海の果ての紫色の本州はいつもより遠い。
 北海道の南端とはいえ葉芽、花芽もまだ硬い木々である。柔らかな春の日の中で、絢爛たる桜の本州との違いを思った。
 街が見える方に上ると、雲海が砂嘴の街を攻めて攻めきれないでいた。

    雲海や下もまた海蝦夷が島  未曉