戸井段丘の春
 先日案内された戸井地主海神社の桜をめがけて車を走らせた。途中、空港滑走路の下のトンネルを歩いてみようと蒲公英花盛りの東公園に車を置いて歩いた。海岸道路を走っていては想像も出来ない段丘の上では春の農作業が鳥の声の下で繰り広げられていた。
 
 空港の東端と思われるところを北上する。飛行機のための誘導灯はあったが滑走路に遮られることはなかった。函館方向から恵山方向へ向かう舗装道路にぶつかる。広い農地が広がっている。人影は少ない。辛夷、桜、緑を増した牧草地、そして土の色。長閑な風景にひたって車しか通らない道路の端に立っていると右手の野原から一頭の大鹿が走ってきた。あわててカメラを構える。ファインダーの中に入って来ない。猛スピードで走ってきた車を怖れて止まったようだ。車が過ぎると道路端で左右を確認するようなそぶりを見せ、ついでに目に入った私をしばらく観ていた。やがて道路を渡り左側に広がる畑の出来たばかりの柔らかい畝の上を跳ぶように遠ざかって言った。鹿の尻の左右にに白い毛があることを知り、跳び去る鹿のその白い毛が上下に波行する蝶のように見えた。何を植えるためなのかきれいに調えられた畝に汚点のように穴があいていた。鹿の足跡はあちこちの畑に残されていた。

   白蝶のごとく畑を鹿の尻   未曉
 その道を函館方向にもどる。牛小屋に巣があるのだろう。燕がひっきりなしに飛んでいる。牛小屋のこの匂いの範囲がテリトリーでもあるかのように小屋の廻りだけを跳んでいた。
 暖かい。舗装道路が皿鉢形に降りて行く。そして登る。いつのまにか汗ばんでいる。再び人家が見えるところに国道方向への標識があった。近くになった管制塔から多分間違いないだろうと思いながら下っていくとトンネルの入り口が見えた。高さ3.4Mの制限標識がある。右側に少し高くなって歩道がある。飛行機の発着があれば楽しいのに…などと思ったが、静かなまま車一台に追い抜かれて出発点東公園を少し粋すぎたところに出た。
 秋の散歩も良いかもしれない。
 肝心の地主海神社の桜並木の「関山」はまだ早かった。鶯だけがきれいな声で迎えてくれた。
    鶯の声伸びやかや畝に人     未曉
    関山の咲かぬまま見て花納め   未曉