札幌中央区・さくら庵

 おおよその住所さえわかれば蕎麦家捜しはかんたんである。客引きのための「そば」幟が立って居るからである。しかし、「さくら庵」は店の前まで行かなければわからない。探していない人には蕎麦屋はもちろん客商売の店と言うことさえわからない店構えだった。

 暗いアプローチの飛び石を歩いているうちに「蕎麦屋」への心構えを調えると言うコンセプトなのだろう。その廊下のようなアプローチを一曲がりし、戸を開けると暗い部屋。奥に長いベンチがあり、普段はお客さんは待たされるのかもしれない。左に4人分のカウンター席の小部屋がありそこに案内された。座った私の背中も小部屋になっていて4人掛けの卓が2,3あるようだ。それらが全部壁で仕切られているせいか穴蔵感になっている。もちろん清潔でこざっぱりしている。大きな通りから僅か5,6Mしか離れていないのにそれを忘れさせる作りになっている。
 「きりっとしたそば」というのが第一印象。しっかり締まった歯応え、角が感じられる舌触り、鼻の奥の方に覚える蕎麦特有の風味…。この仕上がりならと期待して山葵を乗せて啜ると期待に違わぬ蕎麦の甘さが口に優しい。辛汁は辛目で蕎麦先をつけるだけで十分美味しい。
 掛け蕎麦は最初の一口が一番美味しい。麺が細いので急いで啜る。あたたかい蕎麦はざらざら感や蕎麦の風味が強調されて「蕎麦を食ってるー」という実感を持てる。だしと醤油と蕎麦、「よし」である。蕎麦の中に切れ残りのような小さな蕎麦の塊が二個ばかり入っていた。演出とすればなかなか心憎い。
 そば湯は茹で釜から汲んだもの。辛汁でもかけ汁でも美味しくいただけた。また一軒美味しい蕎麦屋さんが見つかった。