目を凝らしてよく見なければ見えないような雨が降っている。
我が家の居間に20年前桂林に旅行したときの画が飾ってある。
 床の間も無いのに行く先々で嫌気がさすほど掛け軸を売りつけられた。バスにいれば窓下に来、歩いていれば目や耳を奪わんばかりに前後左右に群がってきた。値段は黙っているとたちまち半値以下になってしまう。昼食の食堂では景色も見えないほど窓を塞いで掛けられていた。意地でも買うまいと思った。
 最初から筆と墨を記念に買うつもりでいたのでガイドにそう言う店を紹介して貰った。墨と筆を買った後、そこに軸装も額装もされていない全判大の画が幾点かあり、それまでの反動のように気に入ったものを一点買ってしまった。ゲームのように値切ることを楽しみにしている一行の人たちの様子を見ていると、結構高いものもあってそう言う画は七割程度以下には絶対値下げしていない。私が買った画もとても半額にはならなかった。気に入ってしまった弱みもあり、私の交渉力の不甲斐なさもあるが、値下げしないところに安心感を覚えたこともあって買ってしまったのである。帰国後文雅堂で額装してもらい合計結構な金額になってしまったが気に入っている。
 「漓江烟雨」右上に書かれている画題である。今降っている雨よりもっと霧に近い雨である。
 このまま春になろうはずもないがこの雨に春の兆しを想う。画の中の漓江の流れが少し動いたように見えた。

    春めくや墨絵の水のふと動く   未曉