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矢越岬に輝く朝日を眺めていた。白神岬突端の国道パーキングエリアで寒さに震えながらである。
着いて15分も過ぎたろうか、突然国道を挟んだ斜面の一段高いところに鳥の声がしてざわめき出し、無数の黒い鳥影が浮き沈みを見せた瞬間大きなヒヨドリの一団がその固まりを変幻させながら海に飛び出して行った。「鳥雲に入る」という春の季語があるが「鳥雲(ちょううん)」とすれば「渡り」という秋の季語の傍題になる。鳥雲の発生を見た。
白神の岬鳥雲放ちけり 未曉
波の上に出るとヒヨドリの固まりはスウッと海面近くまで降下し、這うように海峡の中を目指し飛んでいった。2〜3度試し飛びを繰り返した後渡を始めることが多いと聞いていたが、最初の一団はそのまま津軽、竜飛を目指したようだ。
鵯の飛び方は波行という。
鵯の波の形に行く津軽 未曉
津軽は肉眼では白い海霧で見えないが、鳥雲は迷うことなく南を指していた。
鵯に津軽は見えて渡行く 未曉
念願だった白神の渡を観ることができた。朝5時出発、7時前着。ちょうど良いタイミングだった。高い空を渡り鳥の一団が飛んでいく様を勝手に想像していたが、目の前から飛びたつ小さな鵯の本能的決断に心打たれた。