羯諦

 情報雑誌に取り上げられその地図でようやく見つけることができた。大野新道函館に向かって左側ばかり探していた。最初に見た地図は確かひだ…まぁ見つかったからいい。
 基本的なところは職人がてげたようだが、その後は素人の手で客を迎えられるようにしている。手作り感というよりつぎはぎ感が強い。
 11時過ぎたばかりなのに二人の先客。左の壁の棚のような卓に着いている。正面奥に小上がりでテーブルが二つ。私は入り口のすぐ右横にある違和感いっぱいの小さなテーブルに座った。どうやら先客の分の調理中らしく待たされた。一人で商売しているらしい。先客の蕎麦が出されたあとに冷えた蕎麦茶とメニューが届けられた。品書きは少ない。基本的な蕎麦屋のメニューで手がいっぱいのようである。「じぶんの蕎麦を食べさせたい」というコンセプトの店のようだ。
 もり蕎麦を頼んだ。黒く中太の面が笊に盛られてだされた。蕎麦である。味、香り、粉っぽい硬さ十割蕎麦という割に口当たりが良い。辛汁も蕎麦に合っていて箸がすすむ。三口目で掛け蕎麦を追加する。掛け蕎麦が来る間そば湯をいただいた。そば粉を溶いて作ったらっしく濃厚な蕎麦掻き一歩手前のようなそば湯だった。「さらっとしたのもありますが…」と声をかけてくれたが折角だからいただいた。これほど濃厚でなくても私は良い。かけそばも美味しかった。田舎っぽい蕎麦にだしが効いたあま汁は私の好きな醤油が押さえられたものだったが、蕎麦の素朴さを引き出していた。山椒が効いた七味でせっかくのそばの香りが負けてしまった。かけなければよかったと思った。私はシンプルな掛け蕎麦にはシンプルに一味が良いと思う。好みの問題だ。
 つぎはぎは少し落ち着かない気持ちにさせられるが、蕎麦は美味しい。そんな店だった。