季題「手袋」
 「手袋」は、そのまま子ども時代の思い出に繋がってしまう。
 私は帽子や手袋をどこかに置き忘れてくる子どもとして母親にあきれられていた。あきれながら、小言も言いながらそれでも母は手袋を必ず用意してくれた。外遊びに命を懸けていた子どもにとって手袋は必需品と言うより武器だったから。雪合戦はいつか相手の顔に雪をこすりつける喧嘩だったし、そり遊びのブレーキは足も手も使った。しかし、それほど大切なのに家路につく頃は無くなっていた。ついに母は、右手と左手の手袋を毛糸で撚った長いひもでつなぎ、肩を経由し両袖を遠し袖口に出る手袋を用意してくれた。
 遊んだ帰りは、赤く腫れたようになった手に息を吹きかけたり、首筋にあてて暖めながら帰る。無くならなかった手袋は、雪氷を付けて両袖口から垂れ下がっていた。
  袖口に手袋垂れて家遠し      未曉
 家に無事帰った手袋はストーブの傍で遊びの熱気を放出させるように湯気を出し始める。それを見ながら眠くなる。「寝るんでない。もうすぐご飯だよ」という声が遠くなる…。
  手袋の湯気にまどろむ日のありし  未曉