中野ダムに姿を映す岩峰

 紅葉の絶景ポイントの一つにダム湖畔から見る対岸の景色がある。赤を中心にした紅葉が切り立つ岩壁に映えて小規模ながらとても美しい。その岩壁はそのまま青空に岩峰となっている。見るたびにあそこに立ってみたいと思っていた。
 中野ダム下から雁皮川に沿った林道をたどる。今日はこの林道から寅沢林道方向へトラバースして城岱沼を目指す林道歩きだ。日陰は肌寒く感じるが日向に出ると緩い登りなのにすぐ汗ばむ。30分も歩いたころ左手が大きく開けた伐採跡になった。地図で見ると、ダム湖の東側に延びている尾根である。伐採跡を行けば薮漕ぎなしでもしかしたらダム湖を展望できるあの岩峰の上に立つことができるかもしれない。行くことにした。伐採跡だから植樹されている。それをいためないように歩く。柔らかい落ち葉の下は掘り返された腐葉土である。今朝の寒気で縛れているのでさらさらしている。解けるとぬかるみそうだ。どんぐりが一面に落ちている。拾おうとすると引き抜く感じを伴う。見るとそのどれもが柔らかい土に細い根を伸ばし、越冬の準備をしている。もしすべてのどんぐりが小さくてもいい根を出す時に音を出したらと思うと、この静けさの方が不思議な気がする。
 尾根はだんだん細くなり、一つ目の岩峰が間近になる頃には足一つの幅しかなくなった。しっかりした木の根元近くを掴みながら登り、足場のたしかな所で先行する仲間の写真を撮りながら進んだ。岩の上に立った二人が『まだ先がある」という。後続の二人は、岩の裾を右に巻いて行く。私も右に。道はなく、柔らかい土で斜面に土溜まりを作って足場にし、左手で木を掴みながら進んだ。巻ききってそこから一つ目のポコと二つ目のポコの鞍部に上っていき。そこからみんなの立つ二つ目のポコに登った。そこが頂上だったが、ダム湖は見えない。私があこがれた湖上の岩峰ではなかった。そこへ行くには、尾根の続きをさらにすすんでいくつかのポコを越える必要がありそうだ。今日の行程の主目的では無かったし、時間も気になり、そこから先は日を改めることにして降りた。
 山歩きの楽しさはこんな所にもある。次々に行きたいと思うところが出てきたり、やってみたいことが浮かぶ。そしてそのチャンスがこんな形で突然実現しようたする。私の場合の夢はスケールが小さいからなのかも知れないがそれでいい。
 昨日は、急斜面で攀じ登るところもあったし、1メートルほどずり落ちた場面もあった。それも楽しめた。ここで時間を取ったことや旨く道を見つけられなかったりして、6時間ほどの歩きになったが時々のスリルもハードもいいものである。