夕方椴法華へ車を走らせた。30年前、椴法華小学校に転勤になった時一年間お世話になった下宿の息子だった人の葬儀があったからである。
  枯菊の道を葬儀へ宵の星   未曉
 彼は三つ下でこの春定年退職したばかり…。本来楽しかるべき退職の日々を病魔と過ごし、そのまま逝った。海を目の前に育ち、水産高校を卒業し、水産会社で南洋を仕事人のスタートの場とした人である。長男坊だったから、私が椴法華に住む数年前に帰郷し、役場職員だった。漁師ではないが海から離れることができなかった人だ。亡くなる一月ほど前、海の無い札幌の病院に我慢できなくなったのだろう、「海が見たい」と言って、息子の車で厚田まで行ったそうである。
  喪の人に白菊波となり襲ふ  未曉
 当時、私ともう一人事務官が下宿人だった。二人とも彼の人懐っこさを通して初めての土地や人にスムースになじむことができた。感謝しながら遺影に合掌した。