昆布岳・汗

 昆布岳。最初の30分で体中のほとんどの水分をを出し尽くしたと思えるほどの汗をかいた。雨に降り込められたことにして体を動かさなかった一週間分の残留水分も含まれているに違いない。4合目標識のところでTシャツ一枚になった。腰の辺りの汗が冷えると腰痛の原因になりそうなのでTシャツの裾を引き出してタオルで拭く。このTシャツは空気に触れるとどんどん乾く優れもので私の買い物としては自分を褒めることのできるものだ。すっきりして体が軽くなった。
 昨晩、バドミントンをやって汗をかいたが量も質も違う気がする。全身から汗が出ている実感がある。歩き登るという単調な繰り返しの全身運動の素晴らしさなのだろう。決してダイエットのために登山をしているわけではないが、副産物としてこれだけの汗を出せるというのは私にとって重要なことである。
 4合目辺りまでは硬い赤土が表面だけ湿っている道なのでつるつる滑る。緊張しながらの歩きを強いられる。丈の高い笹を駆り払った尾根道は夏の名残の太陽が照りつけ、風が通らないところはつらい登りになる。飲んだ水が直ぐ汗になる。しかし、5合目からは林間で木陰ができ小さなアップダウンで路面も安定し快適な道になる。広く刈り払われた笹に混じって、一緒に伐られた麒麟草がなぜか鮮やかな黄色で地面に横たわっている。伐られて間もないからなのか雨続きで水分補給ができているからなのか。
 5合目上部のめがね岩を越えた、7合目まで快適快調な歩きができた。広い道作りといい、きっちり600M毎の合数表示といい登山者への気遣いの感じられる山道になっているる。昆布山頂が見えたり、羊蹄山が展望できる場所は、ベンチこそ無いがしっかり草が刈られて広場が作られている。特にめがね岩の辺りは小庭園風な感じさえした。それを味わいながらの歩きで少し汗は落ち着いた。
 8合目を過ぎると勾配が急になる。山頂まで距離1000M。標高差250M。背中のリュックに太陽の暑さがプラスされて重く感じる。歩幅を小さくゆっくり登る。後ろからきた夫婦らしき二人が追い抜いてゆき直ぐ羨ましいくらいの高さのところに行き着いている。せまいガレ場を過ぎ、二つの大岩を攀じった平坦部でようやくいつもの「歩けばそのうち山頂」の実感が持てた。本当に体中の水分が出尽くしたのか汗は無い。Tシャツは乾いた感じさえする。その分頂上で飲んだ水はことさら美味かった。
 さすが日曜日、頂上には2組4人いた。3合目付近で追い抜いた人たちが上がってきた。その次に二十歳前のスニーカーの女の子が登ってきた。珍しい。日曜日でなければこんなことは無い。Yamaさんが「一人ですか?」と訊くと「家族地一緒です」と答えて下のほうを覗き込む。若さゆえにどんどん登ってきたが登りきると親が気にかかる…。爽やかな風が吹いた。
 帰途、温泉で体重を量ったら最近の目標である我が心の大台を少しだけ下回っていた。しかし誓って「私はダイエットのために山登りをしているわけではない」のだ。だから、今日の汗まみれの登山をねぎらいビールを買って帰れるのだ。