白泉岳

 ゴゼンタチバナという花がある。白い小さな花で登山道の傍で見つけることができる。花の大きさの割には大きく厚みを感じさせる白い花びら(正しくは苞)が半球状になったたくさんのクリーム色と紫色の蕊を囲み、草の中から訴える力は強い、このきりっとした美しさが私は好きだ。今日はこの花が白泉岳から南白水岳への稜線上にあった。
 今日の白泉岳は登りのすべてが急勾配の連続であった。音を上げて足を停めなければいつまでも登り続けなければならない感じの急登が続いた。YaさんやKuさんの花ストップも今日は少ない。一箇所10mほどの沢を登る以外は地面の道だったので足場がよいのが救いだった。この道、遊楽部岳までの8kmあまりの登山路を開いたのが若狭さんたち4,5人と言うからすごい。それを考えると登るだけで弱音は吐けないと思うが、体はいうことを聞いてくれない。サンカヨウの粉を吹いたような紫の実、モミジカラマツの白、ノウゴイチゴの真っ赤な実とそのすっぱい味をアクセントにYaさんの設定タイム3時間より少しだけ速く白泉岳の頂に立った。
この頂上は白水岳への稜線上の1ピークである。私たちが立っているのは頂上と言うより白水岳への登山道上ともいえる。行く手には南白水、その向こうに白水岳が繋がっている。南白水岳へは一度降りて登り返しで40分くらいかかりそうだ。行きたい気持ちもあるが行けば往復で1時間半、帰りにも降りる分当然登りがある。うなってしまう。気持ちはそそられるが体は飯にしようと言っている。
 Yaさんが「もうちょっと先まで行って時間で帰ってこよう」と言う。そうだ、そういう手もある。我慢したり無理したりしてまでピークを折り返し地点にしなくてもいいのである。もう一歩行けたらそこまで行って折り返せばいいのである。
 ゴゼンタチバナはその折り返しのあたりの道端に幾塊りも群生していた。もう一歩行かなければ見られなかった花だった。南白水まで行けばまだ違うものも見られたかもしれないが、その無理が花の美しさ以上のアクシデントを生んでいたかもしれない。
 余裕のある「もう一歩」に山道楽しむ極意があるのかもしれない。