バカ常の橅

 これで三週火曜日は天気がいい。今日は今年最初の雪上ウォーキングと同じ大川射撃場の尾根通称バカ常の尾根である。この前は、大川射撃場から蒜沢へ降りたが、今日はその時300mほどつめて偵察した尾根の最奥、標高825メートルのポコまで行くと言う。
 この前より雪がしまっているし、スノーシューにも慣れてきてとても歩きやすい。尾根のわずか下、それも東側を歩くので風もあたらず快適だ。標高650mまで緩やかな尾根歩きだったが、突然前方に大きな岩が聳え、まるでジャンプ台の踏み切りのように尾根を切り取っている。その岩を左に巻いて一段高い尾根に進むことになった。崖のように遮る大岩だけでなく1メートルほどの雪の下にも岩がごろごろあるらしい。時々ずぼっと穴が開く。
 スノーシューは緩斜面くらいまでならとてもいい道具だが、急斜面になると扱いづらく滑ってしまう。スノーシューが水平になるように先端を雪に突き刺すようにステップを切って登っていたら、足下の雪もろとも滑ってしまい踏ん張った足は穴に取られ、バランスが崩れひっくり返った。どこにぶつかったわけでもなかったので苦笑いしてふと目を開けると結構太い橅の、木というより雪の上の幹の部分がすぐ目の前にあった。ぶつからなくて良かったと思いながらそのまま見てしまった。木肌がとても美しい。色調の微妙に違う灰緑色が雲のように流水のように濃淡を変えながら樹皮を彩っている。下手な抽象画を見ているより美しいし場所が場所だけに強さや奥深さも感じることが出来た。橅がこんなにきれいだなんて今まで気がつかなかった。
 実はそんな長い時間ではない。すぐ起き上がらなければならないし、みんなに追いつかなければならない。何食わぬ顔をして緩やかに広がる尾根の上に出たときには橅を見た感動は忘れてしまっていた。
 この急斜面の登りで時間も体力も使ったので826メートルポコはあきらめ、その尾根のなだらかな雪の上で昼を食べた。きっと尻の下は深い笹薮なのだろうが、雪がこんな素敵な場所でゆっくりさせてくれる。私たちはピークハンターではないので、目的はすぐあきらめる。帰り、岩の所の急斜面は少し緊張したがYaさんがいい道を選んでくれたので無事に降りられた。
 このブログを書き出して突然あの橅の木を思い出した。帰り道にもたくさん生えていたし、あの木のそばも通ってきているのに、写真も撮ってきていないし見もしなかった。なぜかすごく残念な気がしている。826mのピークに未練は無いが、あの橅の木肌はまた見たい。