「蕎麦小屋」の鴨南蛮・挽きぐるみ

 新聞などの回想録ではないが、私がお世話になった方々の中にも今年冥界へ旅立った人は多い。その中でも尊敬する教育者の一人であるO校長へは今年もこよなく好きだった酒を持って行った。今年は去年と違い、仏前へ供えてもらうことになるが…。退職後、仁山のふもとの畑地に建てた家に奥さんが独りですんで住んでいる。生前からパチンコが好きだったO校長は、夫婦でパチンコに行っていたが、独りになった奥さんは「独りでいても塞いでしまうので、時々ぱちんこに行ってるの」と言っていた。私は拍手してしまった。「今年は、私も今日持参した酒と同じ酒を買い年越しにO校長を偲びながら飲みます」と言ったら感激してくれた。30年前一緒に学校づくりをしていた頃を思い出し、こみ上げるものを感じながら辞した。
 実は、この家の隣といってもいいところに「蕎麦小屋」という手打ち蕎麦屋がある。私の蕎麦番付から外せない蕎麦屋である。そして、O 校長を訪れたこの時に必ずこの店で蕎麦を啜ってから帰ることも恒例にしている。
 いつもはもり蕎麦を頼むのだが、O校長の思い出を醒ましたくなかったのか温かい蕎麦にした。そして前から気になっていた[挽きぐるみ100円増し]にしてもらった。
 美味い。久しぶりに美味い蕎麦を食べた。挽きぐるみだから香りが強い。その香りが温かい汁にの湯気に増幅されて鼻腔を広げる。焦げ目のついた葱の甘さがアクセントになる。鴨で味が豊かになったたれは締めに山椒を多めにふって全部いただいてしまった。温かい蕎麦が美味しい派としては、リストアップしておくべき一品である。
 O校長また来年来ます。この鴨南蛮はその前に来てしまいそうだ。