「やぶ源」梁川町

 丸井デパートから地下道を通って本町交番前に出る。十歩も歩かない内に全身真っ白に雪なってしまうほどの雪の降り方である。花びらと言うよりは桜の花一つ降ってくるよう感じである。見上げればすごいだろうなと思いながらも顔が濡れてしまいそうなのでやめた。帽子を深くかぶり、襟をたてて歩いた。まだ時間はある。今日は40年ぶりの話になるので、手のままに飲むと飲みすぎてしまいそうだ。腹のほうで手をコントロールするように食い物を事前に入れておくことにする。雪宿り風に…だけど予定通り、「やぶ源」へ入る。この店はいつも飲む前の胃袋調整で入るのでこの時間が多く、いつもだれもいない。いつものようにメニューのもりそば750円の下の「これはふつうのもりそばです」に迷い、手打ちはどれですかときいてしまう。メニューの前書きに「当店のそばは日変わりの手打ち蕎麦です」とあるので、「ふつう」の表記に迷うのである。しばらく眺めていて、これは他の種物との区別のための表記であることに気づく。そんなことを考えている内に頼んだ蕎麦が供された。今日は、「さらしな」だそうである。さらしなだから真っ白い蕎麦かなと思っていたら、薄いけれど、蕎麦の色である。決して白いとはいえない。もし、二番粉や三番粉が混じっていたら私はその方が美味しいと思うので、その細麺を口に入れた。蕎麦の味や香りは強くはないが、舌触り喉越し細面特有の口の中であわ立つ感じがいい。辛汁はマイルドで、多めに浸したほうがうまい。わさびを少し付けて食べると、蕎麦の甘さが感じられてそれもうまい。蕎麦湯はすごく大きい湯桶に入ってきたが薄くてこんなにどうすれというのかなと思った。
 手打ちの店が少ないこの辺りでは貴重な一軒である。750円はちょっと高い気もする。